The Most Heretical Last Boss Queen Who Will Become the Source of Tragedy Will Devote Herself for the Sake of the People

405 346. The knight stuffs.



405 346. The knight stuffs.

「ッま…待って下さいっ…‼︎」

…プライド様と一緒に帰国してから、六日が経った。

二日前には父上が騎士達を率いて無事帰ってきて、重傷だったエリック副隊長や他の騎士も絶対安静ではあるけどだいぶ調子が戻っていた。

それに、アラン隊長とカラム隊長が今まで通り騎士隊長として、そして近衛騎士として騎士団に身を置いてくれることがわかった。一応、エリック副隊長が復帰して正式に謹慎処分を受けるまでは言わねぇようにと口止めはされたけど、…すげぇ嬉しい。昨日の急遽開かれた隊長会議にも二人とも出席したらしいけどまだ処分については発表されなかったらしい。

俺も今朝父上に呼び出された時にも、二人の処分については何も話されなかった。でも、エリック副隊長も順調に復帰に向かっていて、プライド様の怪我も治って、謹慎に入っても一カ月くらい待てばまたアラン隊長とカラム隊長も戻ってきて、ラジヤ帝国との和平も成立していて、ハナズオ連合王国も無事に復旧が進んで近々にはフリージア王国との貿易も決まっていて本当にまたいつもの日常が続くと

…思っていた、のに。

「待っ、…ちょっ、待って下さいって‼︎なン…意味わかんないですって‼︎」

…今、俺はすげぇ必死に走ってる。

ただでさえ近衛騎士がいまエリック副隊長の不在分、三人で回していて休息時間が短いってのに、その休息時間を必死に全速疾走している。

昨日の夜は、すげぇ上機嫌のアラン隊長と打ち合いしてて、カラム隊長までエリック副隊長の分って言って手合わせに付き合ってくれて、夢中になり過ぎて明け方までやっちまった所為で寝不足だってのに‼︎

「っっつーか…なん…で、逃げるんすか⁈」

ヤケクソに叫んでも、届かない。俺が叫ぶのに体力を回している間にあの人は一瞬で先に行っちまう。…でも、だからといって諦めるわけにも行かず、また足に力を込める。騎士団でも速い方の筈なのに、どうしても追い付けない。むしろどんどん離されていく。また腹ン中がムカムカしてきて、俺は思いっきり腹に力を込めた。

「ッハリソン隊長‼︎‼︎‼︎」

ぜぇ、ぜぇ、と息を上げながらまた叫んじまう。

なのにハリソン隊長は、俺が追いついてくるとやっぱりまた高速の特殊能力を使って一瞬で遥か先まで行っちまう。それでも、うっすら目で捉えられる場所に居るせいで諦めきれずにまた追いかけることになる。もう、騎士団演習場を何十周分走ったか考えたくもない。あの人だって高速で移動できるだけでその分走って疲れる筈だってのに‼︎

「ひっでぇ…すよ…‼︎いっつもは…毎回襲ってくンのに…ずりぃ…‼︎」

この距離から聞こえるわけもねぇのに文句が口から勝手に溢れる。ほんとにずりぃ。昨日なんて一日で十回以上襲い掛かってきたってのに‼︎

せっかく午前の近衛騎士後に休息時間を貰って、すぐに騎士団演習場に戻ってハリソン隊長を見つけたのに毎回毎回逃げられる。今朝も近衛任務へ行く前に探したけど一瞬で逃げられた。

「ッちゃんと‼︎納得いく説明ねぇと…俺も困りますって‼︎」

駄目だ、叫び過ぎて息が足りねぇ。遠目にハリソン隊長の背中を捉えたまま俯き、一度足を止め

「説明なら受けた筈だろう?」

どわっ⁈と思わず枯れた喉から声が上がった。

さっきまで逃げ続けた筈のハリソン隊長が、風が吹いたと思ったら俺の目と鼻の先まで来ていた。俯いた俺の顔を覗き込んできたから、一瞬黒い長髪が視界に映ってマジでビビった。

走ったせいか驚かされたせいか心臓がバクバク音を立てる中、鎧越しに胸を手で押さえて数歩下がる。息が切れてまだ喋れないままハリソン隊長を見つめていると首を傾げられた。

「どうした、アーサー・ベレスフォード。もう一、二キロは走れた筈だ。」

逃げたのはそっちだってのに、何故か俺が怒られている。肩で必死に息を整えながら、俺もやっとハリソン隊長に言い返す。

「なんっ…逃げ、…んすか…!」

「お前ならついてこれるだろう。」

相変わらず口数が少ない。しかも必要なことしか言ってくれねぇ筈なのに、答えにすらなってない。俺がもう一度深呼吸をしながら息を整えていると「お前から追いかけてくるのは珍しかった」と付け足された。そんなんであンだけ俺を走らせたのかこの人‼︎

もう逃げられたことは諦めて、もう一度今度こそ聞きたかったことを聞こうと決める。ゆっくり息を吸って、吐いてを繰り返し、またハリソン隊長に向き合

「っっって‼︎今度は何処に行くンすか⁉︎」

また、無駄に喉を使った。

俺が息を整えている間にハリソン隊長が今度は普通に早足で去っていく。もう意味わかんねぇ。

なんとか今度は早足だけだったから、俺も声を掛けながら同じ早足でその後ろを付いていく。まるで狙ったみてぇに騎士の人達の目があるところばっか歩くから、俺も質問を声にあげられなくなる。父上にもまだ話しちゃ駄目だと口止めされた。…ていうか、やっぱハリソン隊長も疲れたのか、早足が若干フラついていた。疲れてるのが俺だけじゃないことに少しほっとする。

「ハリソン隊長!俺のっ…自分の質問に答えて下さい‼︎」

「必要ない。」

「まだ自分は納得していません!」

「必要ない。」

必死に俺が言ってもあっさり切られちまう。タンタンタンタンタンタンと早足で追いかけ続けると、擦れ違う騎士達が「なんだ?」「喧嘩か⁇」と珍しそうに俺とハリソン隊長を振り返った。…なんかガキみてぇですげぇ恥ずかしい。

そうして追いかけていると、突然ピタリとハリソン隊長の足が止まった。すぐ背後に付いていたから一瞬顔面から背中にぶつかりそうになる。

背中を反らして何とか避けると、ハリソン隊長がくるりと俺の方に向き直って横の扉を開けて見せた。

ハリソン隊長の、部屋の。

「入るか?」

無表情のまま問いかけられる。この人はある意味、昔のステイルよりも読み難い。戦闘中以外絶対笑わねぇし。

それでも、ハリソン隊長と話をしたい俺は「失礼します」と頭を下げて開けられた部屋に入った。

俺だけじゃない、恐らく騎士団の誰も入ったことのねぇだろうハリソン隊長の謎の部屋へ。…今度こそちゃんと、問い質す為に。

俺が扉を潜ると、すぐにハリソン隊長が中に入って内側から扉を閉められた。…なんか、このまま殺されるんじゃねぇかと思う。

ハリソン隊長の部屋は殆ど空き部屋みたいだった。俺も私物は少ない方だけど、俺より物が少ない人の部屋を初めて見る。支給品のベッドと机と椅子。あとは騎士関連の用具を抜いたら着替えと水と食料だけで、本当に長年この部屋に住んでるとは思えない。

「それで、何だ。」

背後から刃より鋭いハリソン隊長の言葉が向けられる。

本当に剣先を向けられたような錯覚をして、肩が上下した後に振り向いた。ハリソン隊長は扉に寄り掛かるようにして無表情のまま腕を組んでいた。長い黒髪が、ハリソン隊長が首を傾けるだけで前髪ごとその顔を隠す。

「…っ、…納得、いきません…。…ちゃんと説明して下さい。」

もう一度同じ言葉を投げかける。でもやっぱりハリソン隊長は平然としたまま「既にされた筈だ」としか答えない。

確かに、…父上とクラークから説明は受けた。でも、それでも納得はいかない。しかも、殆どハリソン隊長が強引に推し進めたと聞いた。なら、余計にこの人に聞かないと始まらない。

下手なこと言ったらまた殺しに掛かられそうだから、剣をいつでも構えられるように手先に意識を向けて、口を動かす。

「騎士団長と副団長からは、…確かに説明は受けました。でも、自分はまだ納得できていません。」

「お前の納得は必要ない。」

確かに、そうだ。大事なのは騎士団全体の意思。俺一人がぎゃあぎゃあ言ったからって、説明を一から丁寧に受けれる訳がない。…それでも。

「あまりに突然過ぎます。」

「六日前に防衛戦があった。」

淡々と話すハリソン隊長に、必死に喰らいつく。正直、ステイルやジルベール宰相みてぇに言い合いは得意じゃねぇけど、精一杯に言い返す。

「防衛戦があったからだけでは、理由になりません。」

「八番隊の報告は聞いた。」

俺が理解できるかなんて構わずハリソン隊長が言葉を返してくる。もう答えになっているのか、それとも適当に返されているのかもわからない。

「お、俺はっ…副隊長に就任してまだひと月しか経っていません…。」

「良い経験になっただろう。」

バッサバッサと切り捨てられる。たったひと月で経験も何もない。途中からは防衛戦で大忙しだったし、まだ副隊長らしい仕事なんて殆どしてない。

「っ…おかしいじゃないですか…‼︎」

不満が渦巻いて、神経を集中させていたはずの指先を閉じ込め拳を握る。上手くハリソン隊長に伝わってない気がして歯を食い縛る。それでもハリソン隊長は「何もおかしくない」と言い捨てた。

なんで。

疑問が何度も何度も頭を回るのに、それだけじゃ質問にすらならないし、ハリソン隊長から満足いく答えも絶対来ない。

でも、やっぱり納得いかない。まだ、ひと月だ。たったひと月前に、プライド様達や騎士の方々にも副隊長就任を祝ってもらったばっかだった。父上にも「多くの経験を積め。…これからの為に」と言ってもらったばかりだ。なのに、なのに‼︎なんで俺が‼︎‼︎

「ッ俺が‼︎」と思った言葉がそのまま声に出た。さっき追い掛けていた時みてぇに腹一杯声を張り、目の前にいるハリソン隊長に衝動のままにぶつける。

「俺がッ!八番隊の隊長昇格とかおかしいでしょう⁈‼︎」

ハァ…ハァ…と、まだ走った疲れが残っているのか、これだけで息が乱れた。

拳を強く握ったまま、ハリソン隊長の髪に隠れた目を睨む。

「…外に聞こえたらどうする。」

…やっぱまともな返事は返ってこなかった。防音された隊長部屋とはいえ、俺の疑問より父上達から口止めされた情報が漏れることの方を心配してるようだった。扉の向こうに耳を澄ませるようにして顔を近づけるハリソン隊長は、外に気配がないことを確認してから息を吐いた。…聞いた騎士がいたら本気で永久に口止めしそうだ。

「訳が分かりません。…ハリソン隊長が副隊長に降格する理由なんて一つも無い筈です。」

「お前が隊長になった。ならば当然そうなる。」

まるで空気に拳を振るってるみてぇに透かされちまう。言葉がどうしても通用しない。

「自分が隊長になる意味がわかりません‼︎防衛戦に参じたくらいでっ…」

「そしてお前は騎士団長と北方最前線の窮地を救った。」

「ハリソン隊長だってチャイネンシス王国の城で国王を助けましたよね?あと、一人で南方を殲滅されたと聞きました。」

俺の言葉に、最後ハリソン隊長が初めて不服そうに口を歪めた。

そうだ、俺だけじゃない。ハリソン隊長だってすげぇ功績を残したのに、それで副隊長に降格なんておかし過ぎる。

「………私は大したことはしていない。」

「自分も大したことはしてません。」

言い返したら、またハリソン隊長の顔が暗くなった。若干苛ついているようにも見える。組んだ腕のまま指先だけがトントンと肘を叩いていた。

「…アーサー・ベレスフォード。お前は、…騎士団長に似ている。」

…なんでいきなり話が変わってんだ?

まさかこのまま有耶無耶にするつもりなのか、そうはさせるかと「誤魔化さないで下さい」と言い返す。でも、ハリソン隊長は話を続ける。

「だが、似ていない。言葉も身の振りも未熟な上、何より威厳の欠片もない。」

ッッすっげぇいきなり言葉でぶん殴られた。

父上にまだ敵わねぇのはわかってるけど、そんな風に叩かれると少しへこむ。…ていうかどれも騎士団長になる為の必須項目じゃねぇし。

俺から視線を逸らしたままハリソン隊長は、それでもまだ続ける。

「副団長の如く聡明ですらない。あの方とは似ても似つかない。そしてお前が選んだのは我が八番隊だった。」

だんだんとハリソン隊長の言葉が流暢になっていく。なんでだ。今は戦闘中でもねぇし父上もクラークもいねェのに。…あと、俺が八番隊選ぶのとクラークは関係ねぇだろ。

やっぱ怒らしちまったのかなと変に冷えた頭で考える。

「そしてお前はプライド・ロイヤル・アイビー殿下の近衛騎士の座をその実力で勝ち得た。だからこそ私は…」

もう何の話をしていたかわからなくなる。確か俺とハリソン隊長の役職が変わるのを抗議に来た筈だってのに。一体どうすりゃあこの人に答えてもらえ

「そんなお前を気に入っている。」

…?

なんか、いますげぇよくわからねぇことを言われた気がする。

聞き返したくて、瞬きを何度もしながらハリソン隊長を見つめ返したけど、もう一度言ってはくれなかった。

代わりに言われた言葉は「ところで休息時間が終わるぞ」だ。気がついて時計を探すけど、この部屋のどこにも無い。一体どうやってハリソン隊長は時間確認してンだと思いながら、挨拶だけして急いで俺は部屋を飛び出した。…結局、納得いく理由も聞けずにはぐらかされたまま。

ただ、

ハリソン隊長に挨拶で顔を上げた一瞬、……その口元が少し緩んでいたような気がした。


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