The Most Heretical Last Boss Queen Who Will Become the Source of Tragedy Will Devote Herself for the Sake of the People

235 194. The outrageous princess threatens.



235 194. The outrageous princess threatens.

「ッ一時…凍結…⁈」

ガタン、とセドリック第二王子が掛ける椅子が音を立て、彼はその場に茫然と立ち尽くした。驚愕に表情を固め、時折痙攣するようにヒクつかせている。

「どういうことです…⁉︎昨日の時点では確かに互いの条件に問題は無かった筈ではなかったのですか⁈ジルベール宰相殿‼︎」

動揺のあまりか声を荒げ、信じられないように私を睨む。若干怒りで顔色も赤らみ、全身に緊張を走らせていた。

「ええ、〝昨日の時点〟では。」

動揺から興奮し始めるセドリック第二王子を宥めるように、ゆっくりと彼へ言葉を返す。彼は未だ納得しかねるように一人首を振り、歯を食いしばった。

「!まさか、プライド第一王女殿下がっ…‼︎」

突然出てきたプライド様の名に、今度は私が首を傾げる。昨日ステイル様がセドリック第二王子に咎めた行いのことを言いたいのだろうか。まさか、その腹いせにプライド様が同盟交渉の一時凍結に手を回したとでも考えたのか。

「?プライド様、が何か。恐らく今頃、プライド様にも通達がいっている頃でしょうが…。」

私が敢えて、訳がわからないといった表情をしてみせれば彼は口が滑ったと言わんばかりに目を見開き、そして視線を下へと降ろした。「いえ、何も」と言いながら明らかにその表情は困惑と疑惑に染まっていた。

彼の熱が少し収まったところで改めて彼に席を勧め、彼が腰を下ろしてから私もテーブルを隔てた向かいの椅子に腰掛けてる。

「…セドリック第二王子殿下、我々に何か伝え損ねていることはありませんか。」

座ったままうつむき気味だった彼が、私の言葉に瞬時に顔を上げ、ゴクリと聞こえる程に息を飲んだ。昨日の謁見でもそうだったが、どうやら彼にはこういう交渉事は向いていないらしい。

「先程、新たな情報が入りました。コペランディ王国、アラタ王国、ラフレシアナ王国…。いずれもハナズオ連合王国の近隣国と存じ上げております。」

ヴェスト摂政に届いた使者からの報告。

この数十年、多くの国との交流を拒み続けたハナズオ連合王国。それが我が国との同盟交渉を望む為に国を出る二日前、とある国の訪問を許していた。

コペランディ王国。

その馬車がハナズオ連合王国に入国を許されたところを偶然にも我が国の使者が目撃していた。

更には、コペランディ王国に滞在していた我が国の別の使者が、王族の馬車が国外に出て行くのを確認している。

双方の使者が記した大体の時刻からも合致がいく。

そして、今朝に届いた使者からの更なる情報。

同じくハナズオ連合王国の近隣国であるアラタ王国とラフレシアナ王国。

この二国が戦準備を始めているということだ。

突然の侵攻準備、近隣二国がほぼ同時に兵を起こすなど偶然とは考えにくい。

「コペランディ王国がハナズオ連合王国を訪問したことも、そしてアラタ王国とラフレシアナ王国が戦準備を始めていることも此方は既に掴んでおります。」

当然、更にはこの三国の大いなる繋がりも。

私の言葉に歯噛みしながらセドリック第二王子は拳を握らせた。やはり、彼もそれは知っていたらしい。…そして、隠していた。

「どうか、詳しく御説明願います。セドリック第二王子殿下。」

この三国と、ハナズオ連合王国との関係。

それが不明なままでは信頼も、同盟もあったものではない。

だが、セドリック第二王子は視線を彷徨わせたままひたすらに口を閉ざした。

彼が黙する理由、それはつまりヴェスト摂政の案じていたことが的中したということなのだろうか。

ならば尚更、フリージアはハナズオ連合王国との同盟を白紙に戻さざるを得なくなる。

「……っ、それはつまり…説明によっては同盟の取消もあり得る、ということでしょうか…。」

端整な顔立ちを苦々しく歪め、両眉を強く寄せたセドリック第二王子は腕や肩、身体中を怖ばらせ、絞り出すようにやっと口を開いた。

私がそれを無礼にあたらないように細心の注意を払って肯定すると、彼はまた黙し始めた。仕方なく、私から更に彼に語り掛ける。

「…セドリック第二王子殿下。勿論、同盟の行方については、あくまで〝事実によっては〟です。ハナズオ連合王国と同盟による和平を望む我が国としても出来る限り互いの同盟関係を叶えたいと」

「ッなにが〝和平〟だ‼︎これほどの力を持っていながら国が誇りの為に戦場へその身を投じることすら躊躇う臆病者が‼︎」

ダンッ‼︎と私の言葉を打ち消すようにセドリック第二王子が目の前のテーブルに力の限り手をつき、音をたてた。肩から息を上げ、興奮した様子の彼は燃える瞳でその場に再び立ち上がり、私を睨みつけた。

「戦場…?」

やはり、アラタ王国とラフレシアナ王国の戦準備は彼らと無関係ではないらしい。

私の聞き返しに彼は喉を詰まらせたかのように口を結び、思わず零してしまった言葉を後悔するかのように剥き出しにした歯を食いしばらせた。

「〝臆病者〟という言葉については私の胸中のみに留めておきましょう。どうか、詳しい御説明を願います。戦場、とはやはりハナズオ連合王国は近々」

「ッもう良い…‼︎」

再び、彼の叫びに私の言葉が遮られる。

テーブルに手をついたまま俯き、その声は投げやりにも、そして悲痛にも聞こえた。

「フリージア王国にその気がないことは十分に理解した…!それでも同盟が叶わぬというのならばこれ以上貴方方に話すことなど無い。私はこの場にて失礼させて頂く。」

今度こそ彼は椅子から勢い良く立ち上がり、振り向き様に周囲の侍女と衛兵に帰国の準備をと命令を下し始めた。

「!お待ち下さい、セドリック第二王子。」

確かに女王…ローザ様からは帰国か長期滞在かのどちらかを仰せつかっている。だが、このような怒りに任せた帰国では互いに遺恨も今後の関係にも傷が残る。私はどうか彼をもう一度落ち着かせるべく言葉をかける。そうしている間も熱の発した彼の周りでは忙しなく侍女達が急ぎ荷をまとめ始めている。

「我が国がサーシス王国との同盟を望んでいることは変わりません。」

私の言葉に睨みを返しながら、彼が乱れた息を少しずつ遅らせていく。私の言葉に未だ耳を傾ける分、少しは理性も残っているのだろう。

「我々の元に届いた情報も確かとは言えません。貴方と我々で事実の行違いをしている可能性も十分あるでしょう。」

今のこの状態の彼をこのまま国に返してはならない。確信ともいうべきそれに私は準じ、どうか彼が引き止められるようにと言葉を重ね続ける。

…何より、今の彼の取り乱す姿はまるで、どこかのよく知る愚者に酷く重なって見えた。

「まだ、女王陛下も我々も調査段階なのです。だからこそ、詳細をご存知の貴方に話をお聞かせ願いたいと願っております。」

「…だが、貴方達の予想通りの事態であればフリージア王国は同盟を結ぶ気はない。…だからこその一時凍結なのだろう。」

幾分落ち着いた彼からの言葉に、今度は私が黙する。否定はできない。だが、それが何なのか…それを確かめる為にも今、彼からの情報が少しでも必要なのだ。

ローザ様はヴェスト摂政、そして王配のアルバートと共に審議の最中だ。今後のサーシス王国との同盟の為にも、第二王子である彼からの情報は必要不可欠だ。

だが、彼は口を噤んだ私に背を向けると扉へと歩み始めた。手早く荷をまとめた侍女達がセドリック第二王子に続こうと荷を抱える。私が再び彼の背中に言葉を掛けようとした、その時だった。

ダンダンッ!

第二王子の部屋だというのにも関わらず、強めに扉を叩く音が響き、セドリック第二王子も驚き扉の前に立ち止まる。「失礼致します」という声が聞こえ、同時に衛兵により扉が開かれた。そして、堂々とその場に現れた御方に私だけでなくセドリック第二王子までもが目を見開き、一歩後ずさった。

「プライド第一王女…殿下。」

言葉が漏れ、彼は驚愕をそのままにプライド様から目を離せないようだった。更にその背後にはステイル様、ティアラ様、そして近衛騎士、近衛兵と続く。最後の一人が室内に入りきると同時に扉が再び閉められた。

扉の前に立ち塞がるように佇むプライド様にセドリック第二王子が戸惑いを隠せぬように膠着した。

「……どうやら、間に合ったようですね。」

プライド様は部屋内の荷をまとめた侍女や衛兵達を目に、小さく息をついた。落ち着いたその眼差しが、最後にゆっくりとセドリック第二王子へと向けられた。

「セドリック第二王子殿下。貴方は未だ国に帰ってはなりません。」

なっ、とプライド様の言葉にセドリック第二王子が息を詰まらせる。紅く燃える瞳を向けられてもプライド様は物怖じ一つせず正面から受け止め、見つめ返していた。あの御方にとってはセドリック第二王子の眼差し程度は今更怖じけるにも値しないのだろう。

「…っ、申し訳ないがそれは断る。フリージア王国と我が国は同盟交渉は決裂した。私がここにいる理由など無い。…よってこれ以上、我が国の事情を説明する義理もない。」

最後はプライド様から視線を逸らすように私へ視線を向けてきた。恐らく、それが私への答えなのだろう。

「なりません。貴方の口から、我が母上に全てを語るまで帰す訳にはいきません。」

はっきりと言い放つプライド様の言葉に、セドリック第二王子の目が見開かれる。彼から何か言葉を返そうとするが、まだ己が感情に言葉が追いついていなかのようだった。それを見定め、プライド様は更に続ける。

「もし、どうしても貴方が去るというのならば私にも考えがあります。」

ギラリ、とプライド様にしては珍しい、強い敵意にも感じられる眼差しがセドリック第二王子へと向けられた。「考え…?」と疑問が先行するかのように口からやっと言葉が溢れ、プライド様が頷くと同時に背後からその両脇を近衛騎士の二人がプライド様を守るように固めた。

さらにプライド様の隣にはステイル様が並び、セドリック第二王子を警戒するかのように睨みつけていた。

「貴方がこの連日、私に犯した無礼と暴力。その全てを母上に報告させて頂きます。」

プライド様の御言葉に今度こそセドリック第二王子の呼吸が一瞬止まり、彼は言葉を失った。口を魚のようにパクパクと開き、見開かれた瞳が細やかに震えながらプライド様へと捕らわれていた。

「正式に我が国が貴方の身柄を拘束するのに十分過ぎる理由と、…更には国同士の諍いにもなり得るでしょう。」

プライド様の発言に、今度はセドリック第二王子だけでなくこの場にいる誰もが息を飲んだ。その言葉は、誰がどう聞いても脅迫だ。プライド様がサーシス王国の第二王子を言葉で縛ろうとされている。

…だが、私には覚えがある。この、プライド様の意図せぬ言葉を。

私は知っている。

この御方が、こうして言葉で相手を縛る時。

この御方が、他者へ己が権力を振りかざす時。

それは、その者の為に動く時であることを。


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