The Duchess of the Attic

81 51. Operational meetings



81 51. Operational meetings

「さて、では久しぶりに夜の散歩と行こうか?」

「何年振りかしら? こうしてお屋敷を夜に抜け出すなんて、十年以上前よね?」

「そこは真剣に考えるなよ」

「だって、昔のように体が動くか心配なんだもの」

「お姫様、お互い年齢には触れないほうがよいかと思いますが?」

「それもそうね」

オパールはくすくす笑いながらクロードの手を握った。

今度こそ一緒に行ける。

そう思うと、状況も忘れてオパールの気分は高揚していた。

まだ子供の頃、二人で夜に伯爵家の領館から何度も抜け出したことを思い出す。

あの頃は二人だけの秘密のつもりだったが、トレヴァーにはしっかりばれていたらしい。

だが今は、コナリーにはばれない自信があった。

なぜならクロードがちゃんと下準備をしているはずだから。

こうして堂々と――とも言えないが、敵地にあるにもかかわらず、昔と同じ時間に迎えに来てくれたのだ。

窓枠に跨いで座ったクロードは、オパールの手を握ったまま、もう片方の手で道順を示した。

「ここを伝って、あの木に移って下りる。できるよな?」

「もちろん。私も以前からあの木は下りやすそうだなって思っていたの」

「では、お先にどうぞ」

普通なら男性に手を引いてもらうべきなのかもしれないが、オパールが先に行きたがることをクロードは知っていてくれる。

オパールは嬉しそうににっこりして、大胆に窓枠を乗り越えた。

「スカートがめくれるぞ」

「下にズボンを穿いているから大丈夫よ」

小声で言うクロードに同じように小声で返せば、むせるような声が聞こえた。

ちらっと振り向くと、クロードは笑いを堪えている。

オパールは器用にバランスを取りながら、片手で静かにするように人差し指を立てた。

どうやら子供の頃のことを思い出したらしい。

考えてみれば、もう二十年近く経っていて、さらにお互い公爵と公爵夫人という立場になっているのに何をやっているのかと、オパールまでおかしくなってきた。

それでも笑いを堪え、どうにか壁を伝って、登りやすそうな――下りやすそうな大木へと移り、するすると簡単に下りていく。

クロードはいつでも助けられるようにと考えていたようだがその必要もなく、二人とも無事に地上に着地できた。

「こっちだ」

クロードに差し出された手を握り、オパールは黙って後ろをついていった。

しかし、屋敷から離れしばらくしてから振り向く。

「どうかした?」

「追手がいないわ」

「しまった! 演出が足りなかったかな? ――いてっ!」

わざとらしく失敗したと嘆くクロードの足を、オパールは蹴った。

子供の頃の助けられるだけのお姫様役はもう十分である。

いったいどれだけの公爵領の人たちが反国王派のふりをしていたのだろうかと思いながら、オパールはぼやくクロードに並んで歩いた。

「――奥様! オパール様!」

「ナージャ!」

屋敷の敷地から出て、狩猟用の森に入り少し進んだところにあった番小屋に入ると、ナージャが勢いよく抱きついてきた。

オパールも喜びナージャを抱き返す。

「ナージャ……無事でよかったわ」

「それは私もです。奥様と引き離されたときはどうなるかと、心配で心配で……。何度か戻ろうとしたんですけど、私を捕まえていた兵士さんが『私がおとなしくしないと、奥様が困ったことになるぞ』って。脅されているのかと思って、力いっぱい足を踏んでやりました」

ナージャはオパールの無事を確かめるように、少し離れて全身をチェックしていたが、最後に反乱軍の制服を着た男性をちらりと見た。

苦笑するその男性は宿屋でナージャを拘束した兵士だった。

ナージャの気の強さを知っているオパールはつい笑ってしまったが、ナージャはぷうっと頬を膨らませる。

「笑いごとじゃないですよお」

「ごめんなさい、ナージャ。でも反乱軍の中で私がナージャをどれだけ大切に想っているかを知っているのはジュリアンくらいだったから。それでジュリアンは私たちを引き離したのでしょうけれど、私一人に注意が向けられているほうが逃げられると思ったのよ」

「じゃあ、私たちに逃げられたって知ったら、ジュリアンはコナリーさんに怒られますね!」

「ええ、そうね。いい気味だわ」

意地悪くオパールが言うと、クロードが噴き出した。

それからクロードはナージャから奪うようにオパールを引き寄せる。

「さて、そろそろ妻を返してもらっていいかな? 久しぶりの再会なんだ」

「もちろんです!」

クロードの言葉に、ナージャは顔を輝かせて頷いた。

だがオパールは睨むようにクロードを見上げる。

「あなたには色々と説明していただきたいことがあるわ」

「明日じゃ遅いかな?」

「明日には片付いているでしょう? 朝までたっぷり時間はあるわ。だから、その前にお願い」

「――わかったよ」

諦めたようにクロードが了承すると、オパールはにっこり微笑んだ。

そしてナージャに向き直る。

「ナージャ、朝まであまり時間がないから、もうゆっくり休んでくれる?」

「わ、わかりました……」

オパールの言葉の矛盾とクロードの絶望的な表情を見て、ナージャは笑いを堪えながら部屋から出ていった。

この番小屋は家族用に作られているのか、何部屋かあるようだ。

「オパール、俺たちはこっちだ」

「……素敵ね」

「だろう?」

その場に何人かいる兵たち――そこで雑魚寝をするだろう兵たちに軽く頷いてから、クロードとオパールはナージャとは別の扉へ向かった。

そこは物置のようだが、奥に梯子がかかっている。

明らかに屋根裏部屋へ――部屋とも言えないだろう場所へ上がるのだろう。

くすくす笑いながらオパールが先に梯子を上ると、やはりそこは物置にされている屋根裏だった。

しかし、ちゃんと掃除はされており、ベッドはないが寝心地のよさそうな羽毛布団とクッションがいくつか置かれている。

「まるで秘密基地ね」

「ああ。それでは、第……何回かな? とにかく作戦会議を開始しよう」

「了解!」

本当に子供の頃のまま、その続きのように言うクロードの言葉に、オパールは見様見真似の敬礼をしてみせた。

それから二人で声を抑えながらも笑い合ったのだった。


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