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474 114, Sandra in the Private Hall and Professor



474 114, Sandra in the Private Hall and Professor

八月六日、デメテの日。

この日私達は『王の海鮮亭』で目を覚ました。広い部屋なので、雑魚寝するのに全く問題はない。

私だけ早起きしたようで、朝風呂にでも入ろうかと脱衣所で服を脱いでいると、いきなりサンドラちゃんが入ってきた。逆だったら大ごとだよな。

「おはよ。早いね。」

「おはよう。私も入っていい? 嫌な夢を見たせいで変な汗をかいたの。」

「アレクが怒るからダメ。と言いたいとこだけど、アレクはそのぐらい気にもしないからいいよ。これを着てね。」

そう言って私の湯浴み着を渡す。私はタオルでも巻いておこう。

「半分からそっちに入ってね。僕はこっち側だから。」

広い湯船だけどケジメは大事だ。

「あら、つれないのね。私これでもモテるのよ?」

「分からなくもないね。知的な眼差しの中に少し色気も出てきたみたいだし。」

「少し、ね。それよりあの時の餞別ありがとう。カース君は忘れてるみたいだけど、本当に助かったわ。あの大金貨がなかったらきっと私は惨めに下を向いて生きていたわ。」

「思い出した! そうだよね。王都に着いたら驚いてもらおうと思って入れておいたんだよ。役に立ったみたいだね。」

「カース君のことだから気前よく金貨を入れてくれてると思ったのに。まさか大金貨だなんて思いもしなかったわよ。」

そろそろ風呂を出ようとしていたら……

「あっ、カース君ずるい! サンドラちゃんとお風呂に入るなんて!」

「おはよ。セルジュ君も入るよね? 半分からそっちに入ってね。」

セルジュ君はこの年にして既に少し腹が出ているな。運動しないとね。

私と入れ違いでスティード君も入ってきた。とてもいいタイミング。私はアレクの横でもう一眠り。風呂で何が起ころうと私は関知しない。ちなみにコーちゃんはアレクの首に巻きつくようにして寝ている。ピュイ〜ピュイ〜と寝息をたてながら。何て可愛らしい組み合わせなんだ。

その後私はアレクに起こされ、三人も風呂からあがったようで朝食となった。そこでサンドラちゃんが、

「ねぇみんな。昨日言ってた講義が今日あるんだけど出てみない? クリュヴェイエ教授の講義って意外と人気があるのよね。」

夏休み、それも週末なのにそんなことをやるのか。いや夏休みならではの特別講義ってとこか。

「面白そうね、どんな講義なの?」

アレクも興味を示した。

「分野で言うと魔法工学ね。いかに魔法を世の中の役に立てるか、便利に使うか。そんな内容よ。他の学校からや大人の人達も来ると思うわ。」

魔法工学か。魔法工学博士とも関わりがありそうだ。結局みんなで行くことになった。ちなみにサンドラちゃんと一緒なら入場無料らしい。私達を連れて行きたい理由があるそうだが、一体何だろう?

午前九時前。私達は大学の講義室のような講堂に到着した。すでに大勢集まっている。この部屋は三百人は入れそうかな。サンドラちゃんが既に席を用意してくれていたようで私達は最前列だ。寝られないじゃないか。手回しがいいなぁ。

周りを見渡すと同い年ぐらいの学生から五十過ぎのおじさんまで様々な人間が集まっているようだ。すごい先生なんだな。そんな先生に数学を教えるサンドラちゃんはもっと凄いのか。

「みなさんおはようございます。本日はようこそのお運びありがとうございます。今日の講義は『粒』についてです。数年前から私の師である魔法工学博士ベクトリーキナー卿が展開している『極小粒元体理論《ごくしょうりゅうげんたいりろん》』をみなさんにも実感していただく内容となっております。」

これはすごい! 先日フェルナンド先生から聞いた内容じゃないか。来てよかった!心眼の参考にしよう。

「では講義に先立ちまして、みなさんの中で『遠見』が使えない方は挙手をお願いします。」

視力を良くして遠くを見る魔法だ。必要性を感じなかったので覚えていない。だから手を挙げた。

「え? カース君って遠見が使えないの?」

セルジュ君が意外そうに聞いてくる。周りでも手を挙げているのは一割もいない。

「そうなんだよ。興味が湧かなくてさ。」

代わりに魔力探査や範囲警戒の効果はめちゃくちゃ広いんだぜ。

「はい。分かりました。では確認の意味を込めて詠唱を書いておきますので、この場で覚えてしまいましょう。」

そう言って教授はカツカツと白板に字を書き始めた。最前列の席でよかった。

「では私に続いて声を出してみましょう。」

よし、覚えた。遠くが見えるのはいいが、視野を広げたり狭めたり、また焦点を合わせる制御が結構大変だったりする。

「さあ、これでもう皆さん使えるようになりましたね。出来ない方は話だけでも聞いておきましょう。さてそもそも極小粒元体理論ですが、これは物体は目に見えない小さな粒の集まりであるといった考え方です。」

三割ほどはキョトンとしており、三割ほどは平然としている。そして残りがザワザワとしている。

「カース君は分かる?」

サンドラちゃんが心配そうに尋ねてくる。電子顕微鏡など覗いたこともないが、知識としては勿論知っている。

「一応ね。これは算数と関係ないから教えてなかったんだよ。」

これが物理とか化学まで行くと無関係とは言えなくなるが、算数と関係は……たぶんない。サンドラちゃんが少し剥れているようだ。悪気は無かったんだよー!

「さて、その小さな粒のことをベクトリーキナー卿は『粒元体(りゅうげんたい)』と呼んでいます。本日の講義ではみなさんにこの粒元体を観察できるようになってもらいます。」

それはすごいな。どこまで見えるようになるんだろう?

「では、皆さん。早速やってみましょう。こちらに注目してください。」

教授は手に持った何かをテーブルの上に置いた。

「これはただの鉄です。『鉄塊』の魔法を使えば大抵これが出てきますね。各自『遠見』を使ってこれに書かれている字を読んでみてください。」

二十センチ四方に満たない立方体だ。肉眼では何も読み取れない。こんなに近くにいるのに。遠見を使ってみると……

「見えない物を見ようとする心眼」

誰かが答える。ようやく私にも読めた。こんなところで心眼とは。

「さあ他のみなさんもしっかり読めるまで続けてください。これを読めれば次に行けますよ。」

「アレクは読める?」

「ええ、遠見のような中級魔法は結構得意なのよ。」

さすがアレク。基礎を怠らずに修練しているんだな。

「では皆さん読めましたね? 次はこれです。近くに寄ってから読んでみてください。」

教授は先ほどの立方体の違う面をこちらに向ける。やはり肉眼では無理だ。

「真実が見たいなら心の眼を開け」

再び誰かが答える。えらく心眼を推すんだな。ようやく私も読めた。だんだん字が小さくなっていくようだ。

そんな時間を繰り返してついに目の前五センチに置かれても全く読めないレベルになった。

「では、これからが本番です。もう肉眼ではどうやっても見えない小さい字が書いてあります。目に魔力をたっぷり込めて集中していきましょう。」

ここからは立方体が増やされており、五人に一個の割合で配られた。

「サンドラちゃんどう?」

私達はちょうど五人、前後左右と上から立方体を睨む。背の関係で上から見るのはスティード君だ。

「難しいわね。制御も大変だけど、魔力をかなり消費するわね。カース君なら魔力でゴリ押しできるんじゃない?」

だよな? いつも通りゴリ押しだよな?

「頑張ってみる……」

魔力を込めるのはいいんだが頭が痛くなる。度のキツいメガネをかけているような気分だ。魔力を込めるほど頭痛がひどくなる。これはゴリ押しも難しいのか……

イメージだ、魔法に大事なことはイメージなんだ。その気になれば魔法は何でもできるはずだ。まずは光学顕微鏡をイメージだ……そしてピントを合わせるんだ……

きっつ……

次々と読めた! という声が上がる。これは中々悔しいな。

「読めたわ!『暗闇で羽ばたく鳥は心の眼が開いている』よ!」

さすがはアレク。悔しい、でも褒めちゃう。私は休憩だ。苦戦している時は休むか遊ぶに限る。だよねーコーちゃん?「ピュイピュイ」

「私も読めたわ! アレックスちゃんと同じだわ!」

二人とも凄いな。よし、私も本気になるぞ!

『遠見』

目の前の物に遠見を使うと、かなり気分が悪い。度のキツいメガネをかけたあげく船酔いしている気分だ……吐きそう……うぇ。

しかし分かってきた。遠見の魔力を一点に絞り込むんだ、小さく小さく……

見えた! やっと読めた……ふう……

「読めた方は手を挙げてください。次に行きますよ。」

この教授はこれだけ小さい字をどうやって書いたんだ? いや刻んだんだ?

まだまだ続くようだ。厳しい講義になってきたな……


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